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文学交流研究会
Association for Literary Exchange

​文学交流研究会について

 文学交流研究会は、〈文学交流〉に関心を持つ研究者のための共同研究の広場です。

 〈文学交流〉とは、「異文化に立脚した文学相互の〈双方向〉的交流」を意味します。そして、異なる国・民族・エスニシティの文学同士が出合い、新しい文学が誕生する現場に立ち会うことが、〈文学交流〉の研究です。

 この文学交流研究会では、主に日本文学と外国文学について、〈文学交流〉の視点から研究を進め、異なる言語・文化間の相互理解の促進をめざします。さらに、自然と人間の関係、〈戦争〉と〈平和〉、貧困、人間の尊厳と〈自由〉、宗教的寛容、近代化と伝統文化、ジェンダー、テクノロジーと人間、生と死など、人間の普遍的テーマを追究します。

​NEWS

2024.03.16  文学交流研究会・第1回研究発表会が無事終わりました。Wix Forumにコメントや研究発表に関わる情報の書き込みができます。書き込みをするためには、このホームページのRegistrationで会員登録をし、またForumからも申請をお願いします。Forumでの承認の連絡が事務局あったのち、書き込めるようになります(書き込めない場合にはご連絡ください)。
2024.03.15  文学交流研究会・第1回研究発表会を開催します。

戦後日本SF小説における「帝国」と「主体性」

Imperialism and Subjectivity in Postwar Japanese SF

ラーソン・マイケル Michael Larson (慶応義塾大学法学部)
2024.02.29  ホームページを公開しました。

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Harbin, China    Vancouver, Canada    Ljubljana, Slovenia    Los Angeles, US

​今なぜ〈文学交流〉の視点が必要か

​ 第1に、今日、日本文学がかつてないほどに、世界のさまざまな場所で、読まれ、翻訳され、研究され、その地の文学に影響を与えているからです。たとえば、俳句は、西欧とアメリカ合衆国だけでなく、スロベニアやセルビアなどのバルカン半島の国々、ポーランド、トルコ、南米などでも読まれ、それぞれの言語で「俳句」の制作も行われています。また、ポーランドでは、未来にタイムスリップした戦国時代の武士を描いたSF小説シリーズ『たけし』が人気を博しているといいます。さらに、さまざまな地域の日本文学研究の成果も、ブラジルの詩人による日本の表意文字についての論考など、見逃すことができないものとなっています。

 こうした動きを、単なる「ジャポニズム」(日本趣味)と見るだけでは不十分です。むしろ、世界のさまざまな人々が、日本文学が人間文化の一つの果実として、これから新たな文学・文化の可能性を見出そうとしていると考えられます。今や日本文学は、日本国内だけに閉じられたドメスティックな文学ではなくなっているのです。それゆえ、日本文学における海外文学の受容だけでなく、日本文学が海外の文学・文化・社会に与えた影響や、日本文学と海外文学が出合うことで誕生したハイブリッドの文学を考え、日本文学と海外文学が出合うことで誕生したハイブリッドの文学や、日本文学と海外文学とが、それぞれ独自のバックボーンを踏まえながら提起している人間の普遍的テーマなど、〈文学交流〉を見極めることが必要となっています。

 第2に、“文学研究の社会的効用があるのか”という疑問に対して、「ある」という答えを示したいからです。21世紀に入って、世界の国々はかつてないほどに経済的繋がりを強めていますが、その一方で、経済的には自国優先主義、政治的にはナショナリズムが高まりを見せています。また、それぞれの国内において中間層が失われ、貧富の差が著しく拡大しています。国内外で急速に進む分断は、発達したSNSにより深刻になっています。匿名性が強く、不満のはけ口となったSNSは、憎しみの連鎖を生み出すからです。そして、2019年末に発生し、世界的規模で感染が広がった新型コロナウイルス感染症COVID-19、2022年2月に始まり、世界的なエネルギー価格の高騰をもたらしている、ロシア連邦によるウクライナ侵攻は、世界の経済的繋がりの強さを改めて示すとともに、社会の分断に一層拍車をかけています。

 このような時代状況の中で、私たちが決して手放してはならないものが、理性的な〈相互理解〉です。そして、その〈相互理解〉のための、最も深い次元の通路が文学です。インドの経済学者アマルティア・セン Amartya Senは、子どもたちがアイデンティティを構成する要素として、言語、民族性、文化史、科学的関心ともに文学を挙げました(『人間の安全保障』東郷えりか訳、集英社新書、集英社、2006)。文学を通じて、異なる言語・文化を持つ人々のベースにある考え方や感じ方、またその人々が抱え持つ社会的課題を理解することができるのです。

(小松靖彦「はしがき」『文学交流入門』武蔵野書院、2023)

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